巷で、行政書士は「身近な街の法律家」と謳われることがありますが、この表現は疑問です。弁護士をはじめ、法律がかかわるほかの士業は「身近じゃない」のでしょうか?
また、「法律家」というところもどうなのでしょう?法律家に訴訟はつきものと思いますが、行政書士は、現行制度上、訴訟につき委任を受けて代理人となることはできないのですが…法律家という言葉が定義する範囲によるのでしょうかね?
さて、疑問から入ってしまいましたが、タイトルの回収です。
行政書士になるのに、法律家になろうとする必要はありません。択一式の問題がほとんどなので、インプット中心の学習をしましょう。
「え?それ何?どういうこと?」と思われるでしょうが、以下に説明します。
インプット中心の学習とは
法律家になろうとすると、知識をアウトプットできる力を身につけようとしがちです。ここでいう「アウトプットできる力」とは、説明力のことです。会得した知識を書いたり言葉にしたりして、他者にとってわかりやすく説明できることです。論文形式の出題や、口頭試験がある場合は、アウトプット力を身につけなければ太刀打ちできません。
一方で、行政書士試験では、その出題形式は、
①5肢択一式
②多肢選択式
③記述式
となっています。年度ごとに、それぞれの形式がどのくらい出題されているのか内訳をみてみましょう。
一覧でみると一目瞭然です。ほとんどの問題の出題形式は、①5肢択一式 ②多肢選択式です。③の記述式は例年3問の出題です。
出題形式から考えると、
- 講座や本で学習
- その成果を、すぐに問題を解くことで確認
- 忘れないように定期的に復習
することが大事です。この1から3までがインプット学習です。
例年、出題形式はこのスタイルですので、形式が変更にならない(記述式が増えない)限りは、インプット学習が重要であることは変わりません。
アウトプットは全く必要ないか?
さて、次は配点の面でみてみましょう。下表は令和2年度試験の配点です。
記述式は、3問しかありませんが、配点が60点もあります。この年度の合格基準は下記の点数です。
仮に記述式が0点であったとすると、法令等科目が 244点-60点で184点満点となり、前記1の条件に照らして、122点/184点≒0.67、つまり、択一式で7割近く点数がとれないと合格できないことになります。
同様に、前記3の条件に照らしても、180点/240点=0.75、つまり択一式全体で75%以上の点数が取れなければ合格できないことになります。
行政書士試験は試験範囲がけっこう広く、得意不得意の科目がでてきます。記述式を完全に捨ててしまうと、その分だけ不得意の範囲を狭めなければならないので、いくらかのアウトプット力は必要です。
ただ、この記述式ですが、今のところ、
- 約40文字で回答する簡記式
- 用語自体の意味もしくは制度の要件効果について記述する出題傾向が多い
- 部分点があることが推察される ※部分点の存在は公表されていないが、部分点がなければ記述式1問あたり20点or0点になるはずのところ、間の点数がつくので、部分点があることが推察される。
であることから、スクール等で出題傾向を対策すれば、そんなに時間をかけずに会得できるでしょう。
いずれにせよ、記述式ができたからといって、択一式の苦手分野が多ければ合格できないので、まずは択一式をインプットでしっかり学習し、その効果を図り、記述式は択一式の苦手分野の点数を補完できる程度に対策することがカギになります。
スクール利用のメリット
スクールでは、総合的なコースのほかに、分野・科目ごとのコース、記述式対策コースなどいろいろなコースが用意されています。
繰り返しとなりますが、行政書士試験は、
- 何年もかけて合格を目指すものではない
- 一発合格・早期合格することで、実務会得のための時間を作ることが肝心
な資格試験ですから、ぜひ資料を請求して自分にあう学校・コースを探してみてください。
最後に表題について
えっ?「せっかく法律を勉強したのに、ひろーい法律知識をひけらかせないなんて…」だって?
いいじゃないですか。「申請手続のスペシャリスト」になればいいのだから。
資格取得を目指しながら、「法律家」になろうとして法律知識のアウトプット力を身につけることに時間を割くよりも、取得後どの分野でスペシャリストになるのか意識して、その道のアウトプット力を高めたほうがはるかにいいですよ。